思い出の山行・飯豊山 川入から(2001年)二人で

飯豊山登山記録

川入登山口~三国岳~切合小屋~本山小屋~飯豊本山~本山小屋 泊
~往復~川入登山口

標高差 約 1,555 M

平成13年6月29夜行 6月30~7月1日登山

6/30
第1日歩行
地図による歩行時間(8時間20分)
小休憩、写真撮りを含む歩行時間 9時間24分
総所要時間 9時間55分
7/1
第2日歩行
小休憩、写真撮りを含む歩行時間 6時間13分
地図による歩行時間(5時間30分)
総所要時間 6時間40分
咲いていた花
上十五里
ヤマツツジ、
剣ケ峰~三国岳~七森
シラネアオイ、ミツバオウレン、ノウゴウイチゴ、ヒメサユリ、ハクサンチドリ、タニウツギ、
種蒔山~切合
ミツバオウレン、ノウゴウイチゴ、ヒメサユリ、ハクサンチドリ、タカネシオガマ、ミヤマシオガマ、ヨツバシオガマ、ミヤマハンショウズル、
オノエラン、ニッコウキスゲ、ミヤマキンポウゲ、キジムシロ、ミヤマキンバイ,ハクサンチドリ、タカネシオガマ、ミヤマシオガマ、
ヨツバシオガマ、ミヤマハンショウズル、ミヤマキンポウゲ、
北峰~本山
ヒナウスユキソウ、ミヤマキンバイ、オヤマノエンドウ、イワウメ、ハクサンイチゲ、シラネアオイ、
御西岳周辺のハクサンイチゲの群落、今が最高と言う下山者あり

情報
本山の水場は雪の下。しかし後から来たパーティーはどこからか水を汲んできた。
後にネットで<やま・ゆり>達のパ-ティとわかった。
おそらく水場の雪渓をもっと下に下りたか、玄山道の雪解け水だろう。
種蒔山分れのホ-スからは水がでている。草履塚の雪渓の岩が現れる所でもとれる。
本山小屋は日本海側からの猛烈な風雨により雨が進入、1、2階共三分の一位が水浸しで使用不可。

 天気予報は第一日目が曇り、夕方から梅雨前線の影響を受け雨が降出し、第ニ日目雨となっていた。一時延期を決めたものの次の山行には彼女が行けなくなる事が決定、第一日さえ降らなければと急拠予定を変更、大急ぎ支度を整え飯豊山を目指した。

行けなくなっった理由は、未熟児で生まれ入院している双子の孫の内の一人が、先に退院して来る事になったからである。
車の中では彼女が、孫の泣き真似や笑い方を身振り手振りで面白く話し、しばらくは笑いながら走った。

 翌朝登山口は曇り、中十五里辺りでヤマツツジが咲いていてほっとしたが、湿度は百パーセントもあろうかという感じ。相変わらず大きな段差の「短足返し」?と、太った人は通れず戻るしかないという両側壁の「デブ返し」?が執拗に現れる。
いくら足長細身の我々だって大変いらつくのだ。

峰秀水の水場を過ぎる辺りでは一時薄日も差して喜ばしてくれた。この道は水場道という立派な名があるが、でなければ私は木の根またぎ道とでも名付けたい。疲れた足を大きく広げてまたいだり、持上げたり、かと思えば細かくちょこちょこ歩き、どうにも苦手だ。
ようやく樹林帯を抜けると、先ず大勢のヒメサユリがこちらを向いて、いらっしゃい、いらっしゃいと言っていた。ここでそれに酔っていたいところだがここからが剣ケ峰の始まりで息を整え気を引き締める。

しかし今年のヒメサユリは以前来た時よりも俄然多いのにびっくりした。三国岳を過ぎ、七森を過ぎようかという辺りまでその群生は断続的に続いた。お陰様でこれを見ればもう飯豊に来た甲斐があったというものだ。

避けては通れない程のヒメサユリ街道


 種蒔山の雪渓はガスがかかり見通しが悪かったが、チシマザサの切れ目を慎重に探して進み、間もなく種蒔山分れに着いた。そこで引水してあるホ-スから三リットルの水と飲用の一リットルの水を汲み、今夜の宿の本山小屋へ向かう。六時間近く背負って来たザックが水の重みで更に肩に食い込む。草履塚の雪渓の途切れる所の露岩の上から、豊富な雪解け水がザ-ザ-と流れ落ちている。ここでも水を汲む事はできたのだが、ほたるじゃないが、あっちの水の方がうまいような気がして・・・

更に雪渓を詰めチシマザサの夏道に入る頃、ぽつぽつ降出した雨はすぐに本降りとなった。未だお昼頃で、たしか予報は夕方からの降出しだから思ったよりも大分早い。これからがまた期待のお花畑なのに、ちょっと残念ではあるが気を取り直して先に進む。彼女も元気だ。草履塚の先で先ずヒナウスユキソウの群落に会う。いつか出会って二人で喜び合ったあのイワウメは、もう数輪を残し終っていた。

 姥権現おばちゃまに再会の挨拶をすると、にこっとしたような気がした。次は御秘所前後のお花畑が期待だ。あのオヤマノエンドウとヒナウスユキソウの共演が見られる筈である。彼女が先に行き、「あった-、咲いてる-」と歓声をあげる。なるほど枯山水のごとく白い砂の縁に、緑の葉のソファ-の上で、ぱっちり開いたミッキ-マウスの目のような紫色の花がにぎやかに咲いている。


 ヒナウスユキソウも無数にあって、ガスでどんより淀んだ背景に真っ白い姿が浮かび、雨に濡れ透き通るような滴を付けて、冷たい風に揺れている。それらの姿を見た人は誰もが愛しく思うだろう。雨の中での写真撮りに大分時間を費やした。

オヤマノエンドウのお花畑の中のヒナウスユキソウ

 本山小屋下の水場を確認するため下って見ると、やはり雪渓の下に埋もれていて当分期待出来そうにない。水を汲んで背負って来たのは正解だった。風が強くなってきたが本山小屋をそのまま通過、本山山頂に向かった。ガスがかかって全く見通しが悪く、ただ足元だけを見て歩き十五分位を長く感じた。強風の山頂でカメラが濡れないようにかばいながら記念写真を撮りすぐに小屋に戻る。


小屋には誰もいないだろうと話しながら入ると、それがびっくり、一人の男が大の字にひっくり返り寝ていた。我々のざわめきで彼も目をさまし、起上がって互いに挨拶を交わす。それからしばらく山の話しに花が咲いた。彼は昨夜切合小屋で泊り、今日御西小屋まで行って来て、今夜ここに泊りたいが水がなくどうしようか迷っているという。我々が節水すればあと一人分位は余計にあるだろうと思ったが、私から泊るよう勧める事をためらった。彼は大分元気だし未だ時間が三時と早い。結局、御西岳付近のハクサンイチゲの花が辺り一面咲いていて素晴らしかったことなど話した後、切合小屋に向かって出発した。

我々も二人だけでも寂しいし下ろうか迷ったが、今日歩いた時間を考え留まる事にした。四時頃になり、いよいよ二人だけかと話しながら休んでいると、若い男が一人入って来た。その男は、ダイグラ尾根入り口の吊り橋が落ちていたため梶川尾根を登り、縦走して今日一日でこの本山小屋まで辿りついたと言う。雨に大分濡れていた。同じ様に水が少ししかなく切合小屋まで行くかどうか迷っていると言う。今度は1リットル位なら分けて上げられると言うと、彼は喜んでお礼を言い泊まる事になった。


話しをしながら水割など楽しんでいると、一時間位遅れて更に八人のパ-ティがやって来た。若い娘一人を含む中年の女性ら三人といかにも山慣れしている感じの五六十の男達である。その中のリ-ダ-らしい人は何処からか水を汲んで来た。水場は雪の下だったし、もしかして水場の雪渓をもっと下ったのだろうか、それとも玄山道の雪解け水だろうか。知っている人のみ成し得る事だ。
結局十一人泊まる事になったが、切合小屋へ泊まった人と本山小屋に泊まった人の明暗を分けようとは、この時誰も予想し得なかった。

その夜騒々しい音に目が覚めた。それは猛烈な風の狂ったようなうなり声と、小屋が壊れそうにガタガタと揺れる音であった。台風でさえこのような風の音を聞いた事は記憶にない。
日本海側のニ階の冬用のドア部分から雨が進入しているらしく、ポタポタと雨漏りしていて一階の半分はびしょ濡れとなった。明け方までに弱まるのだろうかと心配しながら、うつらうつらと長い夜を過した。

 暴風雨は一向に弱まる気配をみせず、とうとう夜明けを迎えた。外へ出て見たり、しきりに様子を伺っていた青年は、先ず朝食を済ませ身仕度を整えると、互いの無事下山の言葉を交わし小屋の外へ出て行った。

私はもしかして昼頃には弱まる可能性もあるかも知れないと思いながら出発するかどうかを決めあぐんでいた。二階のパ-ティもリ-ダ-の判断に任せたようだ。少しの間迷っていた私は、下山して行った青年も戻って来ないし、昼頃迄に弱まらなかった事を考え、結局下山することに決定した。支度を整え出発しようとする頃、ニ階のパ-ティもどうやら下山する事になったらしく、身仕度を始めたようである。

我々は、その人達とお互いに無事下山の健闘を誓って短い挨拶を交わし、一足早く小屋を出た。


猛烈な風の音である。小屋の下の窪地を過ぎて広い尾根に出た途端、暴風雨は一気に我々に襲いかかり、たちまちよろめき、腰を屈めて踏ん張るばかりで前に進めない。必死で体勢を立て直し支え合ってようやく五メ-トル位先の草付きの風下に入る。少し息を整え、又次の草付きの窪みや岩影を目指して這うように進む。ザックカバ-を岩陰で外した。

矢のように横に飛ぶガスと雨、道も探らねばならず、顔を上げるたび小石のような物が飛んで来て顔に当り痛い。それはその後雨粒であることが判った。時々、彼女が付いて来ているかどうか心配で振り返ると、たちまちバランスを崩され吹き飛ばされて宙に浮きニ、三回転する。草付きの窪地で風を避けながら小屋に戻ろうかと話すと、彼女は力強く大丈夫だと言った。その声は風の音に打ち消されそうではあったが、その目とゼスチュアがはっきりとそう言っている。

御前坂を下ればきっと風の当りは弱くなる筈だと言いながら、もう先へ進む事しか頭にない。私だけが三回も吹き飛ばされながら、やっとの思いで御前坂を下り始めた。その中間位まで来て岩の風下で休憩している時、彼女が「後ろ見て!、あの人達手を振っているよ、ほら!」と言いながら彼女も大きく手を振っていた。

ガスの切れ間にはっきり見る事は出来ないが、やはり草付きの陰でニ人の男女と思われる姿が手を振っていた。「後ろの人達早いね」と感心しながら、我々は心強くなったような気がした。心配した御秘所の岩稜は、大分下るせいか風当たりも思ったより弱く無事通過する事が出来た。


それを越えると風の当る場所は北峰だけであったが、もう山頂付近の風よりも大分弱い。二時間あまりの猛烈な風雨との闘いの末、草履塚の雪渓に下ると嘘のように風も当らなくなくなりようやくほっとした。

 切合小屋で休んでいると、すぐに一人の中年の男がびしょ濡れで入ってきて、大日杉コ-スのヒメサユリの素晴らしさを聞かせてくれた。そして、「先週来て帰る時はこのごみはなかったのに」と言いながら指差す方向を見ると、大きなビニ-ルの袋に入った三つのごみが置いてあった。「先週この小屋で酒を楽しんでいると、ほとんど何も持たずに来た団体の内の一人が、酒を飲ましてくれと言ってくるし、最近のツア-登山にはマナ-もなく、全くいやになっちゃうよ」と込み上げてくる怒りを押えるように話している。

その内あの八人パ-ティが到着して途端に賑やかになった。互いに「無事下りられてよかったね~」と彼女らが挨拶すると、山頂付近の状況を知らずに聞いていた男は、「未だ駐車場まで行かないと無事とは言えないなー」と言う。

それもそうだと思いながら出発の準備を整えながら、「ストックの先を無くしちゃってね、途中気がついたんだけど、天気でも良ければ探すところなんだが・・」とストックの先を見ながら話すと、それを聞いていた八人パーティの一人の女性が「あれっ?、そうだ、拾って来たよ、もしかして、そうではないかと・・・」と二階に上がった人のザックの後ろから外して来てくれた。最初に買った思い出のストックなので感激もひとしお、何度もお礼を述べてびしょぬれ男と共に小屋を出た。

 一緒に小屋を出たびしょぬれ男は、雨具は着ているが帽子もかぶらずスパイク長靴といったいでたちで、頭からまともに雨を受けながら御沢雪渓を下り始めた。我々は川入を目指して再びヒメサユリの峰を越え、もしも風が強かったらと思いながら剣ガ峰を越え、長い樹林帯へ入った。途中、闘病生活に入った山仲間への約束のタケノコを、もう採る気力さえなかった。あの猛烈な風雨の中で、ほとんどの体力を使い果たしたらしい。

 下山後、当然ながら友人岡野氏にこの事を報告した。風で吹き飛ばされながら下山した話しをすると、「わっはっはっは、ほ-れ見ろ、だから丸森尾根で俺の体にザイルを縛り付けて飛ばされないようにした彼女の行動は正解だったんだ~やっぱり俺の方が信頼があったんだ~わっはっはっは」と大喜び。

全く~なんで話しがそっちへ行くんだ、無事で良かったね位言えね-のかってんだ。コノ-

後日、この時のパ-ティのストックを拾ってくれた女性が、<やま・ゆり>というネ-ムでホ-ムペ-ジを開いていたのを彼女が偶然見つけ、インタ-ネットで思わぬ再会を果した。

<やま・ゆり>さんはその時の暴風雨の事を「自然の恐怖」と題して、風に転がされながら必死に下りて来たことを、克明に表現している。その時一緒に山小屋に泊まっていた人を「私達の他1パーティ3人」と書いてあったが、実はそれが我々夫婦と単独の若い男で、一緒に酒を飲みながら山の話しを楽しんでいたところである。メールを送る時、ピンクの雨具を着ていたその女性を、私は<ひめ・さゆリ>に見えたと伝えてくれよう彼女に頼んだ。



4 件のコメント :

  1. こんばんは。わかジィです。『想い出の山行‥‥』シリーズ?読んでいます。20年も前の事象を子細に書いており、多分、登山記録を見ながらでしょう。それにしても記録量には限界があるとおもいますので、残りはその人個人の記憶力かと思います。すごい記憶力です。道をあやまりましたか。それとも自分の好きなことには能力を発揮するがそれ以外についてはあまり興味を示さないことかな。
    最近、ふっと思うことに時のながれが物凄く早いと感じることがあります。特に過去を振り返った時何もないとすぐに現代に到着しただちに未来に向かって出発ですが、色々な感動的な出来事がある人は到着が遅くて出発が遅くなり、結果として時の流れが遅くなるのだろう。山の神様に合いましたら聞いていただけますか。
    「あまり考えずに投稿しました。削除していただいて結構です」

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    1. わかジィさん、こんにちは。
      確かセとお誕生日が一緒だったような気が(^^ゞ
      おめでとうございます。
      記憶違いだったらごめんなさい😅
      山行記録は几帳面なセがしっかりと記録していたんです(^^ゞ
      それを見ながら大雑把な私がブログアップしてます(笑)
      10年ひと昔と言うけど20年も30年も早すぎて・・・
      これからの一日一日を感動するものを見つけながら
      過ごしたいですね。
      ちなみに今日はイワタバコに感動してきました。

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  2. ご主人は几帳面なんですね。私も自称几帳面ですけど(笑)、ここまでの文章は書けません。(几帳面と作文力とは無関係かな?笑)
    花の綺麗な時期はどうしても雨の確率が高いですよね。風に飛ばされないように、しかもレインスーツ姿で楽しそうに山頂標にしがみつく奥様、何とも愛らしいですね。

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    1. 楽山紀行さん、こんにちは。
      独身時代は手紙で惑わされました(笑)
      山記録は忘れないように書いていると申しておりました😅
      最近は大雑把なナに感化されて大雑把になりつつあります(笑)
      飯豊はやっぱり雪解けに咲く花の季節が外せませんね。
      でも今は雨の日には歩きたくないです。
      何て言いながら近くの山は時々歩いてしまいますが(^^ゞ

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