思い出の杁差岳(2007年)夜行日帰り

セの 登山記録

飯豊連峰 杁差岳
日時・・2007年(平成19年)6月12日(火)夜行~6月13日(水)
 
 当初の週間天気予報では晴れマークが並び気持ちは既に山気分。しかし、日が近付くとともにそれは悪化の一途を辿り始める。やむなく延期したが、直前になって再び好転の兆しがみえる。火、水曜日頃安定するようだ。もし仕事の切りが良ければ夜行日帰り出来ないものかと検討に入る。
 
 娘の協力から前日は予定より一時間半ばかり早く家を出られた。奥胎内には二十ニ時二十五分に到着、五十五分から車内仮眠とすることが出来た。
 二日目の早朝二時十分、奥胎内からヘッドランプを付けて林道を歩き始める。舗装された広いニ車線の林道には降った雨が流して来たと思われる木の葉や小枝などが、所々で道路半分くらいを覆っていた。足の松尾根取付には三時に到着、十分ほどパンとバナナで朝食とする。

ユキツバキ


 登りは概ヒメコマツの根が地表を網の目状に覆い被したような道で、見上げるような急登が断続的に続く。足の松尾根とはヒメコマツの根がタコの足が絡まったような尾根との意味であろうと勝手に解釈し、妙に納得。姫子の峰を過ぎた痩せ尾根の所で明るくなってきた。

気温が、湿度が高く蒸し暑い。頭が暑いので帽子を脱いだら、帽子の上に付けていたヘッドランプが弾けて飛んだ。しまったと思ったが、無情にも止まらず、カラカラと音を発てながら谷の急斜面を落ちて行った。急だが低灌木も生えているので掴まりながら探しに行けるとも思ったが、帰りにということにしてとりあえず先を急いだ。仮に探せなくとももう十五年位使っている古いタイプのもので、ゴムバンドも緩んでいたから買い換える時期でもあり諦めもつく。

マンサク


 明るくなっても痩せ尾根は続く。前方の大石山やその左側に鉾立峰、右側には地神山や二つ峰からの尾根を垣間見る。残雪の縞模様が爽やかだ。太陽は大石山から頼母木山の間の稜線を越えてほぼ正面から登ってくるように見えた。未だ日陰だというのにこの暑さは一体何なんだろう。彼女の汗は顔から溢れ出るように滴り落ちている。休む回数を増やしペースも落とす。
飯豊では一番楽な尾根だと聞いていたがそんなことは感じない。なかなか近付かない大石山。六時丁度、水場分岐で少し雪を踏む。
 

ようやく目前に大石山への最後の登り。これを凌げば涼しい稜線歩きとお花畑が待っている。もう少しだ。交わす言葉にも力が入る。



 勾配が緩くなると大石山の主稜線分岐に出た。七時三十分で予想以上に時間を費していた。一先ずほっと一息。照り付ける太陽の下、彼女のパイナップルやトマトが旨い。休憩しながら必要最小限の荷物にして残りをここに置いて行くことにした。十分程休憩して第一目的の杁差岳に向かう。

 大石山分岐から少し廻るように行くと正面が開け目前に鞍部を隔てて鉾立峰が構えていた。杁差岳は更に鞍部を隔ててその奥に所々残雪を抱いて聳えている。道端にはハクサンイチゲの白い花の群落があり清々しく、それは鞍部に向かって続いているようだった。癒されながら下り、更に期待しながら鉾立峰の急坂を登る。鉾立峰の頂上に着くとそこには先行者のザックが三つデポしてあった。そこで写真を撮り、また杁差岳に向かって大きく下る。登り返しの途中で三人の男達に会って立止まり話した。彼らは鉾立峰のザックの主で、昨夜頼母木小屋に泊り、今日この山を往復して鉾立峰から道無き尾根のアゴク峰、大楢山を越えて奥胎内へ下ると言う。
生っ粋の山男達だった。少し手前でカメラのレンズキャップを落としたのに気付いたが、もし見付けたら鉾立峰の標柱の所に置いといてくれるように頼み別れた。

前方に朳差岳


ハクサンイチゲ

シラネアオイ

 きつい登り、勾配が緩やかになるとすぐ目の前が開け、手前にハクサンイチゲのお花畑があり、それを前庭のようにして杁差岳避難小屋が建っていた。山頂はその僅か奥である。雑誌などで良く見た光景だった。小屋の横を通り過ぎ九時丁度先ず杁差岳山頂に立つ。振り返れば畝々と主稜が南に延び地神山が大きくその先を遮っている。その右から二つ峰の尾根が上って行き、その奥に大日岳が僅かに山頂を覗かせていて、そして至る所にある残雪の縞模様は、アクセントとなり美しさと共に涼しさを高揚している。仕事や他の山行との都合や絡みにより、なかなか来られなかったこの頂きに、いとも簡単に立っているような錯覚に陥っていた。

ハクサンイチゲのお花畑の中に杁差避難小屋

朳差岳山頂

眼下に杁差避難小屋

 屋の水場は雪渓に覆われていてかなり下っても融雪水があるのかどうかさえ判らない。北側を下った雪渓に長者平の池塘らしき水面が現れているのが見えた。この近辺を探すと融雪水が汲めるかも知れない。小屋のトイレの廻りにはおびただしい程の蝿が飛び交っていた。中を覗かず早速戻る事にした。


 途中、鉾立峰からアゴク峰に向かって下りて行くあの三人の姿が見え隠れしていた。山頂に着くとカメラのレンズキャップが標柱の元に置いてあった。私達はすぐに彼らの下った尾根を眺めて彼らを探した。彼らは既に遠く進んでいて誰だか判らないほど小さくなっていたが、私達は有難うを込めて大きく手を振った。しかし彼らが反応してくれたかどうかは判らなかった。

 十時三十分、大石山分岐で荷物を回収して大石山に向かう。

前方に大石山


ハクサンイチゲの奥にシラネアオイ



今度はハクサンイチゲのお花畑に期待して頼母木山に向かった。間もなくハクサンイチゲのお花畑が見えて来る。近付くと見頃の白い花びらを天に向かって誇らしげに広げ、残雪を抱いた二つ峰をバックに広々と一面を覆っていた。登山道はその縁を通って前に延びている。しばらくは写真を撮りながら、身も心もそれらの中に塗れるようにゆったりとした時を過した。

ハクサンイチゲの奥に二ツ峰



 十一時二十五分、頼母木小屋に到着。


暑いので小屋の陰で休憩しながら、温くなった水を冷たい水に入替えられたらさぞ旨かろうねという話しになった。そこで冷たい水の魅力にあっさり負けた私達は頼母木山を諦め、ここで水を探して昼食タイムとすることに決めた。カメラのレンズキャップを拾ってくれた三人に聞いた大凡の位置を見当に雪渓を下り、小屋に水を引くホースが埋めてある刈り払い跡を伝って再び雪渓に出る。そこからまた刈り払い跡を辿ると急峻な雪渓尻に出て、近付くとその下から水音が聞こえて来た。先ずは飲む。冷たくて旨くて、昼食が食べられないほど飲んでしまった。

水を汲んで帰って来るセ

 水を汲んで帰ると彼女はビールを雪渓に埋めて冷やしながら待っていた。あまり飲めない彼女が乾杯するために内緒で運んで来てくれたものだ。水を飲んでしまったことを後悔したが、それでもその味は格別だった。そして昼食がまた冷やし中華だったりするものだから、この暑さの中ではどんなフランス料理だって及ばない。最近私達の定番になりつつあるものだ。



 水汲みの間に頼母木山に向かったという単独の女性が戻って来た。お花畑の所の登山道脇の笹藪から突然大きな物が走り下るような音がしてびっくりしたが、それは確かに熊だったという。恐いのでホイッスルを吹きながら来たと言っていた。

 暑さの中、お花畑の中の道を大石山に向かって、それから足の松尾根を下る。


尾根は無風状態だった。下りだというのに滴り落ちる汗。何時の間にか集中力を切らしてのんびりムード、木陰での休み時間も多くそして長くなっていく。それでも暑さにバテたという男一人を追い抜いた。これで私達が今日出会った人は僅かに十人目である。下るにつれ谷から吹上げる僅かな風を時々感じるようになってきて、その時は帆掛け舟を思い出しながら体を大きくするようにして受け思いっきりその風を吸い取った。

 この山旅も終りに近付くとじわじわと込み上げてくる達成感に私達は浸った。そして今日、山は期待通りの、いやそれ以上の美しさを以って私達を迎えてくれたことに二人は感謝していた。尾根取付きの先の林道脇の水場で遊び、たらたら歩いて駐車場に戻ったのは予定時間を遥かにオーバー、十七時二十分だった。家に着いたのも二十四時を過ぎていたが、久し振りに私達本来の自由気儘な山歩きを思い出させてくれた山旅だった。








2 件のコメント :

  1. ぶなじろう2024年7月4日 19:12

    今晩は。
    前回は錦秋の朝日連峰で、今回はゼブラ模様の飯豊連峰。どちらも東北の山々の素晴らしさが伝わってきました。
    飯豊は6月がいいのですね。豊富な残雪の山を背景に高山植物が映えています。頑張ったカイがあったというものですね。
    それにしてもセさんの紀行文はとても読みやすくじょうずですね。マメにこのような記録を残されているとは、感心せざるを得ません。
    6月でも冷たい水を欲するのですね。私はお盆のころに頼母木小屋から朳差岳に向かったのですが、暑くてあっと言う間に水切れになってしまい、苦しみました。その後にアブの大群に襲われました。私にとってもある意味思いで深い朳差岳でした。

    返信削除
    返信
    1. ぶなじろうさん、こんにちは。
      読みやすくじょうずと褒められてとても嬉しそうなセです。
      最近は余り褒められる事もなくなりましたので😅
      私がブログを始めてからは書かなくなってしまいました。
      こんなに褒められるなら又書こうかななんてその気になってます(笑)
      飯豊は6月にこだわて歩いていました。
      やはり雪解けとともに咲き出す花、残雪の飯豊が一番好きでした。
      朳差岳はハクサンイチゲの時期にこだわって・・・
      一匹でも嫌なアブなのに大群に襲われたなんてゾ~ですね。
      私達も一度だけ八ヶ岳で同じような目に合い地獄の林道歩きに
      なった事がありました。
      それ以来アブの羽音を聞くとゾ~です😅



      削除